ベルカントを探求する

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来日予定のオペラ歌手Nadine Sierraの発声について

さて、今年の6月、7月に英国ロイヤル・オペラハウスが来日しますが、その演目「リゴレット」にてジルダ役を演じるのが、Nadine Sierra(ネイディーン・シエラ)です。

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今回はシエラの演奏を参考にして、発声について考えていきたいと思いますが、その前に歌い手について書くときの私の思いとかはこちらにまとめているので、誤解のないように面倒でなければ確認してもらえると嬉しいです。

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さて本題にもどりまして、彼女は「リゴレット」のジルダ役をはじめ、「ランメルモールのルチア」のルチア役、「ロメオとジュリエット」のジュリエット役、「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」のヴィオレッタ役などなど、ヒロインの中のヒロインを次々と演じる売れっ子で、メトロポリタン歌劇場をはじめ、世界各国の有名歌劇場で歌いまくっています。

1988年生まれということなのでオペラ界ではまだまだ若手で、今一番旬な人と言っても過言ではないかもしれません。

まあ、つべこべ言わずにまずは彼女の演奏を聴いてみましょう。今回の来日で上演される「リゴレット」より"Caro nome che il mio cor(愛しい人の名は)"をどうぞ。

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さあてどうでしょうか。こちらはMet(メトロポリタン歌劇場)の2018-19年シーズンの演奏だそうなので、今から5年ほど前ですね。

とりあえず、簡単に私が感じたことをいくつか挙げておきます。どの口が言うねんというのは置いておきましょう。

⚪︎高音でも力まずに伸びがある

⚪︎メロディが途切れない

⚫︎口が開きすぎる時がある

⚫︎プント(声の密度)が少し甘い

⚫︎トリルに癖がある

こんな感じでしょうか。私の中では、シエラの魅力はなんといっても、メロディが途切れないことだと思っています。ブレス(息つぎ)の回数も少なく、とても滑らかに音楽が進んでいきます。ここまでくると肺活量も関係するとは思いますが、息のコントロールがとても上手ということです。

そして、この伸びやかな歌声+高音+容姿+演技力(彼女は思いっきり演技するタイプ)によって、Nadine Sierra(ネイディーン・シエラ)という個性を確立しているわけです。

一方で、気になるのは口が開きすぎることでしょうか。そんなに口が開くなんてすごいと感心してしまうくらい彼女は口が開きます。私ならここまでいくと冗談抜きで顎が外れると思います。

割と最近の演奏で彼女の癖がよく出ているなと思ったのはこちら、2023年10月に公演の"ロメオとジュリエット"です。ジュリエットがロメオのことを思い、薬を飲むことを決意するシーンです。

ちなみに、イタリア語で"bis"とはアンコールのことで、歌手の演奏が素晴らしかった時に、自然と観客から"Bis! bis!"の連呼が沸き起こることがあります。こちらはそんな"bis"に彼女が応えた激アツの演奏です。

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どうですか。これだけ感情いっぱい全力で歌ってくれたら観客としては嬉しいですよね。

しかし、技術面だけに注目すると色々気づくことがあります。まず、さっきから言っている口の開きが大きいことによる弊害が色々出ています。なんとなくイメージがつくと思いますが、口の開きが大きいと、その分声が散りやすくなります。声の密度のことを声楽ではプントと言います。そして、声の響く箇所が顎に落ちやすくなります。顎に落ちるといいことは一つもなくて、息が保ちにくくなるし、ピッチ(音程)は低くなるし、トリルも不自然になるし、何より響きが一定でなくなります。

ちなみにトリルというのは簡単に説明すると、"ドレドレドレドレ…"とかを高速で行うことです。上のジュリエットだと、6:00くらいに行っているやつです。音楽が盛り上がるところで使われることが多いです。彼女のトリルはなんか違うなと思うことが多いです、私はね。

このジュリエットの演奏に関しては、感情が優先されているのが大きいと思いますが、とにかく口が開きすぎで、かなりわかりやすく響きが落ちる時があります。一番わかりやすいのは5:15くらいですかね。それで、響きが落ちたらどうするの?というと、また持ち上げないといけないのです。これをすると経験者はよくご存知かと思いますが、息が続かなくなります。なので、あ、そこ吸うの?というところでブレスしています。

ここまで色々言ってきたのですが、他の人も聴いてみるのがわかりやすいかもしれません。ということで、残念ながら映像はありませんが、ベルカントの女王と名高い、Mariella Devia(マリエッラ・デヴィーア)による1999年の演奏をどうぞ。完結に聴きたい場合は4:20から聴いてください。


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やっぱり聴くのが一番わかりやすいですね。デヴィーアはかなり技術がしっかりしたお方なので、余計にわかりやすいと思います。

あ、プントってこういうことか。響きを落とさないってこういうことか。てなりますよね。その声からは品格さえ感じられ、オペラとは声で演技する芸術なのだと改めて感じさせてくれます。ちなみに、彼女は声を響かせるための口の形や口の中の空間の作り方について、確固たるものがあったそうです。詳しくはわかりませんけども。

同じ曲を違う歌い手で聴き比べてみると、色々気づきがあったりしてとても勉強になります。それぞれの歌手の魅力もより感じられますよね。

Nadine Sierraの柔らかな歌声は、彼女の個性なのだということもより際立ちます。私個人の意見としては、彼女がこれからクセ強の歌い方に傾倒していかなければいいなと思っています。

 

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